月の記録 第38話


どうせだから普段行けない場所がいいと言うので、大型店舗に入り5人はウインドウショッピングを楽しんでいた。刺客に狙われている以上荷物は増やせないためあまり買えないが、ルルーシュが気になったらしい品物のいくつかを騎士三人は争う様に買っていた。欲しいとは言っていないだろうとルルーシュが言っても、聞く耳を持たない。三人共騎士だからお金はあるし、ルルーシュが受け取ってくれなくても、気にしたというだけで買う理由は十分なのだろう。
馬鹿な奴らだとC.C.は呆れたように見物していた。
この時いたのはアクセサリーや雑貨を扱うお店だった。5人を取り巻くように移動してきた5人目当ての男女も店内に入ってきたため、それでなくても混雑していた店内がますます込み入っていた。騎士3人が周りを固めているから、おかしなことなど起きるはずも無く、ルルーシュは物珍しげにいくつか小物を手にとっていた。

「なかなか面白いものだな。このあたりのものをいくつか買ってみるか」

それまで気になっても買う意思は示さなかったルルーシュの言葉に、当然三人は食いついた。

「ルルーシュ、どれが欲しいの?」
「何でお前に言わなければならないんだ?」
「え?その、僕が買ってくるよ」
「そういうことか、ならばこれとこれとこれだな」

ルルーシュが指示した物を、スザクは次々手に取った。

「とりあえずはそれだけだな」
「じゃあすぐに買ってくるね」

形はどうであれ、ルルーシュにプレゼントできる!と、それはもういい笑顔のスザクだったが、その腕をジノが引いた。

「スザク、私が買ってこよう」

高価な宝飾品を贈っても受け取らない殿下にプレゼントするチャンスを逃すジノでは無い。その権利は私が貰うと言葉にはしないいが、スザクに告げた。

「ああ、これもいいな」

そんな二人に気づいていないのか、ルルーシュは大きめの木箱を手に取った。彫刻が施された箱は、中を開けるとオルゴールになっていて、綺麗な曲が流れる。箱の中は間仕切りがなく、それがいいのだとルルーシュは言った。

「箱の中はA4サイズの用紙が丁度入る」
「どうするんだ、そんなものを買って」
「開けたら音で解るだろう?大事な書類を入れておけば、馬鹿な連中が勝手に開た時、音に驚くんじゃないか?」

些細な嫌がらせだと、ルルーシュは口角をあげた。

「お前の書類を覗いて何が楽しい」
「さあな?だが、俺の執務室には、よく誰かが入り込んでいる」

アリエスのではなく、宮殿の方に用意されているヴィ家用の執務室に。

「その話、本当ですか?」

スザクの声に振り返ると、ジノとアーニャも険しい顔をしてこちらを見ていた。

「置いている書類は大したものではないが、気持ちのいい話ではないからな。悪戯ぐらいしても許されるだろう?」

騎士に戻った三人に、これ以上この話はするな。と、ルルーシュは声を出さずに命令した。今は自分たちは一般人で、これだけこちらに関心を示している人々に囲まれているのだ。それを忘れるなと釘をさす。

「お前はこれを買って来い」

ルルーシュはそう言うと、ジノに箱を渡した。

「おい、あれも可愛いぞ?」
「ピザの何が可愛いんだ」

ピザを形どった雑貨を指さしながら、C.C.がキラキラした目をし、ルルーシュの手を引いた。このピザ女めと毒づきながらルルーシュも移動した。

「何を言う。ピザは可愛くて、おいしいものだ」
「おまえは一般人と美的感覚も違うのか」
「可愛いと思うものがいるからこそ、これだけのピザグッズが出ているんだ。この可愛さを理解できないお前の感覚がおかしいんだ」

そんな二人の後を、アーニャがついて歩く。
さっさとレジを済ませようと、スザクとジノはその場を離れた。




「ルルーシュがいない!?いないってどういう事!?」

客の多かった店だけあり、レジが混んでいた。かなりの時間をかけて二人が戻ってくるとそこにルルーシュの姿はなかった。いたのはC.C.とアーニャだけ。ここでは店の迷惑になるとC.C.に促され、四人は店の外に出た。

「それで?どういう事!?一緒にいたんだよね!?」
「いた。ずっとそばに。でも居なくなった」
「あの店には洋服も売っていただろう?だから私たちはルルーシュにあうものを選び、あいつは渋々それを手に試着室へ入った。そこまでは確認しているが、流石に中を覗いたり、着替えている間話しかけたりはしなかったからな。すぐ傍で他にいいものが無いか見ていたんだが、その間にあいつは姿を消した」
「まさか、試着室に何か仕掛けが?」
「無い。靴も無くなっているから、あいつの意思でいなくなったと見るべきだ。いや、もしかしたら着替え終わり、試着室を出た瞬間に連れ浚われたか・・・」
「アーニャ!何でちゃんと見ていないんだ!」
「ごめんなさい・・・」

スザクに怒鳴られ、アーニャは顔を俯かせ、力なく言った。
普段感情の見えないアーニャだが、自分のせいでルルーシュがいなくなったのだと考え、泣きそうなぐらい混乱しているようだった。

「謝って済む事じゃない!」

普段アーニャに対して怒鳴ることのないジノまで怒鳴りつけたことで、アーニャの小さな体はびくりと震えた。

「そして、怒って済む事でもないな?目を離したのはお前たちも同じだ」

呆れたように言ったのはC.C.。
つかつかと靴音を鳴らして歩くと、アーニャの前に身を滑らせた。長身で体格のいい男と、それよりもいくらか劣りはするが、それでも十分長身に入るこちらも体格のいい男。そんな二人がまだ中学生の少女に高圧的な態度を取っているものだから、周りから冷たい視線を向けられていた。その事に気付けと、C.C.は視線だけで訴えると、ジノとスザクはいくらか冷静さを取り戻したようだった。
四人は店の壁により、出来るだけ小声で話を始めた。

「僕たちは、ルルーシュに頼まれた物を買いに」
「一人で十分なのに、なぜ二人で行った?下らない欲をかくからこうなるんだ」
「それは貴方にも言えるのでは?」
「私は誰も非難していない。した所で意味はないし、こんな事をしている間にあいつがどんな目にあうか考えたくもない」

人を非難する資格は、お前たちにはないと言っているんだよ。
不安なら発信機や盗聴器の一つでもこっそり付けておけ。
自分たちがいれば大丈夫だという驕りがこの結果を生んだのだから、みな同罪だ。

「でも、アーニャがいた」
「あいつを狙う色魔達に囲まれた場所で、一人でどうしろと?私は騎士では無いから、簡単に目を眩ます事が出来ただろう。となれば、後はアーニャ一人。いかにラウンズ相手でも、何人もの人間が結託していれば、悲鳴を出すことさえできずに浚われたことぐらい想像できるだろう」
「暗殺では無いと?」
「断言は難しいな。欲にかられた者たちに、いい思いをさせてやるから手伝えと持ちかけたのが犯人の可能性もある・・・何にせよ、ここからは別行動だ。私はルルーシュを探しに行く」
「何処にいるのか解るのか?」
「解るとでも?魔女と呼ばれる私にだって、出来ることと出来ない事がある。解っている事は、ルルーシュはまだ生きている、という事だけだ」
「まだご無事だと?」
「命はな。体と心が無事かは解らない。私は私の勘を信じて動く。お前たちはお前たちのやり方で探せ」
「勘を?魔法ではないのか?」

魔女なのだろう?

「魔女と呼ばれているからと言って、魔法とかいう空想世界の便利能力を持ってるはずないだろう。私が持っているのはコードだけ」
「コード?」
「神と接触するための鍵であり、この体を不老不死としたものだ。まあ、その話はいまする事ではないだろう?ではな」

C.C.は踵を返し、野次馬の群れをかき分け、この場を後にした。
神と会えて、不老不死なら十分ファンタジー世界の住人だろうと思ったが、今はそんな事を言っている場合ではなかった。

「どうする?」

ジノはどう動くかスザクに尋ねた。同じラウンズでジノの方が先輩だが、ヴィ家に関してはスザクのほうが先輩だ。

「店内にいる可能性があるから、ジノは店内を調べて。アーニャは車に戻り、ルルーシュのお母さんに連絡して。・・・場合によってはこのショッピングモールを閉鎖し、調べることになる。監視カメラの映像も調べないと」

前半は今までと変わらない声で、後半は更に息をひそめていった。

「誘拐犯の情報を手に入れなければ、どう動けばいいかも解らない」

まだこの建物内にいるなら、捕まえるのも時間の問題だが、既に出てしまっているなら、年齢、性別、体格に目印となる衣服、人数、そして車を調べなければ。やみくもに探して見つかるとは思えない。

「僕はここの責任者とあってくる」

アーニャがマリアンヌとやり取りをした後、すぐに閉鎖出来るようにするためには、ここの責任者を押さえておく必要がある。
三人はそれぞれがすべきことのために動きだした。

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